デスモイド

デスモイド腫瘍(Desmoid tumors:DT、侵襲性線維腫症)は組織学的には良性ですが、局所侵襲的で再発率が高い腫瘍です。デスモイド腫瘍は転移することはありませんが、骨盤や肩甲帯も含めた四肢、体幹(ほとんどが腹壁)、腹腔(ほとんどが骨盤の腸間膜内)など、体内のあらゆるところに発生する可能性があります。特に四肢ではデスモイド腫瘍は多発性に増殖する傾向があります。臨床経過が予期できないことが多く、多種多様です。 デスモイド腫瘍はまれな腫瘍で、人口100万人あたり年間約3~4例しかみられません。デスモイド腫瘍は主に15~60歳で発症し、発現ピーク年齢は約30歳です。 デスモイド腫瘍では、孤発性デスモイド腫瘍と、家族性腺腫様ポリポーシス(FAP)に伴うデスモイド腫瘍とを鑑別しなければなりません。 デスモイド腫瘍のほとんどは孤発性で、家族性腺腫様ポリポーシスに伴って発現するのは全デスモイド腫瘍症例の5~10%のみです。 若年成人、特に妊娠女性は、孤発性デスモイド腫瘍に罹患する可能性が高いとされています。 高齢患者では発現率に性差はありません。   We couldn’t do this without precious help: A special thanks goes to the Japan Association of Medical Translation for Cancer (JAMT) ‘No Barriers in Cancer Care’ for the translation and Dr. Makoto Endo, Dept. of Orthopaedic Surgery, Kyushu University, Fukuoka, Japan for medical proofreading.

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経過観察

重要な解剖学的部位や、急速な成長/複数部位の増殖(多発性増殖)がみられる場合には、密接な経過観察が推奨されます。MRI/CTを用いた経過観察は、集学的チームにより個々に適したタイミングで行われるべきです。

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治療

考慮すべき治療選択肢は次のとおりです。 ホルモン療法 外科手術 薬物療法 放射線療法 化学療法 患肢灌流 温熱療法 「(注意深い)経過観察」 デスモイド腫瘍が疑われる場合は、拠点医療施設/ネットワークでの患者管理(生検を含む)が強く推奨されます。すべての患者は、集学的な腫瘍カンファレンスで検討されるべきです。また、それぞれのケースに応じた個別的な治療方法の提案のためには、患者との話し合いが必要です。

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診断

デスモイド腫瘍の診断の確認には生検が必須で、最終的な診断が出てから具体的な治療処置を始めるべきです。また、デスモイド腫瘍の特性を確認するための主な画像検査は、PET、MRI、CT(腹部)です。

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徴候と症状

痛みを伴う硬い腫れ物(腫脹)が新たにできるか、大きくなっていることに気づく患者が多いです。患者がしびれ感、難聴、チクチクした痛みを覚えるか、四肢(脚、腕)に可動域制限や屈曲制限がみられることがあります。 腹部のデスモイドの診断は非常に時間がかかることが多く、腫瘍が長期にわたって制限されることなく増殖してからの診断となることが多いです。典型的徴候として、疼痛、消化管出血、まれに腸閉塞がみられます。

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研究

現在骨の肉腫で用いることのできる薬物療法は全て、承認を目的とする臨床試験で検証されています。このような臨床試験によって骨の肉腫の治療は進歩し、今日の患者の予後が改善されました。臨床試験は、新しい治療法の価値や患者の生活の質への影響を評価するために不可欠です。 臨床試験に参加することは、骨の肉腫の患者にとって別の選択肢となる治療、ひいては新規の治療を受けるための大切な手段となり得ます。一方、臨床試験は「一人は皆のために」という精神にも叶っています。患者一人ひとりが臨床試験に参加することによってはじめて疑問が解決され、将来の患者に役立つことにつながるのです。   考慮すべきこと 臨床試験への参加には、新たな治療の選択肢を得られるというメリットがあります。 全ての臨床試験にはリスクとメリット、そして参加に適しているか(適格)あるいは適していないか(非適格)を判断する基準があります。試験参加の前に、詳細な検査と説明を受けることが極めて重要となります。 ほとんどの臨床試験は、新しい薬物治療で見込まれる有益性を検証するために、その新しい薬物治療と標準治療とを比較するべく入念に計画されています。 臨床試験への参加を検討する際は、以下の情報を得る必要があります。 「臨床試験」全般に共通する基本情報 その試験で研究中の課題を解決することで患者の利益が得られると試験責任医師が考える根拠 試験治療の詳細、試験では参加者をランダム化するのか、そしてプラセボは含まれるのか 試験で必要なあらゆる検査を含む、すべての必要な健康診断や外来受診 試験責任医師が予測する、患者が直面する可能性のある副作用やその他のリスク。関連性がある場合は治療選択肢やプロトコルの用量の減量。 試験の適格基準と除外基準 患者の試験評価項目および試験結果の予測 予定している試験参加以外の標準治療の選択肢 現在の病態に関する情報(報告書、画像診断から) 試験参加によって患者自身に及ぼし得る影響(身体的・精神的影響、組織の問題、経済的な問題など)。特に、外国で実施される試験の場合は重要です。 患者の全ての疑問に対する試験責任者または試験実施者(試験統括医師)からの回答 試験に対する法的責任はだれにあるのか(試験依頼者)、そして患者が治療を受ける試験を実施しているのはだれなのか(施設および現地の試験責任医師の名前)について知らされなければなりません。患者は試験に参加するために同意書に署名するよう求められますが、国際法(ヘルシンキ宣言)に規定されている確かな権利があることについて知らされます。その権利には、いつでも告知したり、理由を説明したりすることなく試験から離脱できること、患者が適切な治療または標準治療を考慮すべき時にはそうする権利があること、があります。 重要:悪性骨腫瘍の治療にあたる医師全員が、その時点で実施されているすべての試験を必ずしも知っているわけではありません。悪性骨腫瘍の臨床試験は通常、いくつかの選ばれた悪性骨腫瘍の専門医療機関でしか実施されないため、全国規模の患者団体か悪性骨腫瘍の専門医療機関に相談し、参加できる可能性のある試験を見つけてください。  

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経過観察

定期的な経過観察の目的は、早期の治療がまだ可能な時期に、局所再発または遠隔転移を見つけることです。検査には、腫瘍部位の理学的検査に加えて、すべての再建部位の機能や起こりうる合併症の評価も含める必要があります。局所の画像診断や胸部X線またはCTも推奨されています。 欧州臨床腫瘍学会(ESMO)の治療指針によると、化学療法終了後のアフターケアの間隔は、最初の2年間は2~3カ月毎、3~4年目は2~4カ月毎、5~10年目は6カ月毎、そしてそれ以後は局所の治療やその他の要因に応じて6~12カ月毎にしなければなりません。 しかし、経過観察の間隔と同様に、検査の種類も腫瘍の種類や悪性度、そして実施された治療によって異なる可能性があります。

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治療

通常、骨の肉腫の治療には数種類の治療法があります。そのため、腫瘍内科医、放射線腫瘍医、外科医、放射線科医そして必要であればその他の分野の専門家からなる、いわゆる集学的チームが治療の戦略や決定について話し合い、実施する必要があります。 治療戦略は、さまざまな状況、つまり悪性骨腫瘍の種類、病期(腫瘍が原発部位に限られている=限局性なのか、すでにほかの臓器へ転移している=転移がんなのか)、そして患者の全身の健康状態によって決まります。患者は、臨床試験への参加などの選択を迫られる場合があり、おそらく治療チームからの詳細な情報が必要になるでしょう。   手術 手術は、(理想的には)腫瘍を完全に取り除くため、限局性の骨の肉腫に対する標準治療とされています。これは患者が治癒するための最善の方法です。外科医は、確実に腫瘍細胞が体内に残らないようにするため、腫瘍だけでなく正常組織(いわゆる周辺部)もある程度切除します。そうすることで(局所)再発のリスクが減少します。 腫瘍の手術や十分な周辺正常組織の切除は、腫瘍が四肢(上肢または下肢)にある場合、難しくなる可能性があります。すべての悪性腫瘍を取り除く際に、重要な神経、動脈、または筋肉を切除しなければならず、四肢の良好な機能が失われる場合は、切断を考慮する可能性があります。しかし、最近では、完全な切断(四肢の一部または全部の切除)はまれです。専門の外科医は、切断を避け、悪性腫瘍を切除しても上肢や下肢の機能は保つ、いわゆる患肢温存術を行うでしょう。腫瘍によって損傷した骨と置き換えるために人工物(人工関節)が使われることが多くなっています。小児では、自然な成長に合わせて人工関節を延長できるようにする技術があります。このような技術には非侵襲性のものがあり、すなわち、それらは再手術を必要としません。四肢に発生した悪性骨腫瘍の90%以上は、自分の四肢を残すことができます。 骨盤や顎など、その他の部位の腫瘍では、切除した骨は、移植骨または体の他の部分の骨のどちらかに置き換えられるでしょう。将来、コンピュータによる3次元印刷が人工の置換骨を提供することで外科医を支援する可能性が期待されていますが、まだアイデアにすぎません。骨の置換が難しい身体の部位、例えば頭蓋骨では、さらに局所治療が適用となる可能性があります。それらの治療の中には、掻爬(骨を切除せずに腫瘍を掻き出す)、凍結手術(液体窒素を使って超低温でがん細胞を殺す)、骨セメント(徐々に固まる液体で、掻爬の後などに残ったすべての腫瘍細胞を殺す高熱を発する)があります。 手術は、転移がんにおいても選択肢となります。特に肺(悪性骨腫瘍の転移が最も多い部位)では、外科医はすべての転移巣を切除することができる可能性があります。しかし、すべての転移巣が切除できるかどうかは、入念に計画する必要があり、部位、転移巣の数や大きさ、増殖率、罹患期間、患者の年齢、全身の健康状態などの幅広い要因によって決まります。   放射線療法 放射線療法は、腫瘍細胞を破壊するために局所に適用されます。しかし、ほとんどの悪性骨腫瘍(ユーイング肉腫以外)は放射線に対しあまり感受性を示しません。放射線療法をユーイング肉腫に対する主要な治療選択肢とするのが望ましいのはそのためです。 悪性骨腫瘍に対する放射線療法は、外科治療(骨の肉腫において最も一般的)の前後に考慮される場合があります。手術前(術前補助療法)、患肢を切断することなく腫瘍を完全に切除することが可能になるまで、大きな腫瘍を縮小させるために行う場合があります。術中治療としては、小さな腫瘍のある骨を切除し、その骨に対する集中的な単回照射治療を行った後、患者へその骨を戻す臨床試験が行われています。手術後(術後補助療法)は、手術後に残った顕微鏡サイズの細胞から生じる局所再発を防ぐこと、または手術で切除できない隣接した病変を破壊することを目的に行われます。まれに、局所の腫瘍を制御するために手術の代わりとして行われることがありますが、これは緩和療法的(姑息的)な手法です。 腫瘍が体表または体内にあるユーイング肉腫は、放射線療法を行う腫瘍医に対し多くの困難を突きつけます。骨盤部の放射線療法は、合併症が起こる可能性が高く、女性では妊よう性(妊娠できるか)の喪失、患者全体ではその他の副作用が生じる可能性があります。これを避けるため、若い女性の治療と妊よう性の保護のために、陽子線治療の実施が増えてきています。欧州では陽子線施設が非常に少ないため、現在、大掛かりな調整、移動、費用を必要としています。 進行期における放射線療法は、症状の緩和、合併症の予防、また転移、特に骨転移の抑制のために行われることがあります。   全身療法:化学療法および標的治療(分子標的療法) 局所療法である放射線療法や手術とは違い、化学療法はいわゆる全身療法です。血中に投与することで全身に効果があります。 骨肉腫や一部のまれな骨の肉腫に対する術前補助療法は、手術前の導入治療として行われます。目的は腫瘍を死滅させることです。ネクローシス(腫瘍細胞の死)達成の程度は、手術後に病理医によって評価され、よい予後指標になります。追加の化学療法は、治癒のための最善の方法になることが臨床試験で示されているため、術後補助療法として行われます。 ユーイング肉腫に対する化学療法は、通常手術の前後に行われ、放射線療法と併用することもあります。 しかし、脊索腫や骨巨細胞腫では、化学療法が有効でなく、局在性の軟骨肉腫に対してもほとんど考慮されません。 化学療法は進行期や、転移性腫瘍に対して重要な役割を果たします。現在では、次のようなさまざまな薬剤が利用できます: ドキソルビシンおよびその他のアントラサイクリン系薬剤、シスプラチン、イホスファミド、シクロホスファミド、ゲムシタビン、ドセタキセル、エトポシド、メトトレキサート、イリノテカン、ダクチノマイシン、ビンクリスチンおよびその他のアルカロイド。 一部の種類の悪性骨腫瘍に対しては、分子標的薬が有益な可能性があります。このような新しい薬剤は腫瘍の増殖を阻害します。それらの中には、進行脊索腫に対するイマチニブ、再発または切除不能な骨巨細胞腫に対するデノスマブがあります。しかし、これらの薬剤で、このようながん種に対するFDA(米国食品医薬品局)またはEMA(欧州医薬品庁)の承認を得たものはないので、通常、許可を受けて適応外使用しなければなりません。さらに新しい治療法が、現在(初期の)臨床試験で検討されています。

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診断

診断の第一段階は、患者の病歴の評価と精密な臨床検査です。しかし、腫れ、しこりまたは痛みがある場合は、診断や病期分類をしやすくするために画像検査が重要です。画像処理によって、四肢の組織や内臓の詳細な画像が作成されます。 さまざまな種類の医療用画像検査があります。 骨X線検査によって、骨のあらゆる損傷、新たな骨成長または骨折を見つけ出します。 磁気共鳴画像(MRI):MRIは標準的な画像診断法です。患部の骨と同時にその周囲の組織の画像も作成し、医師が、がんが身体の他の部位に転移していないかどうか評価できるようにします。MRIは、特に四肢、骨盤、体幹の画像診断に役立ちます。 コンピュータ断層撮影(CT)は、骨の損傷だけでなく、体の他の部位(例えば肺やその他の臓器)の病変を目に見えるようにするために用いることができます。 陽電子放射断層撮影(PET)も、がんが他の臓器に転移していないかどうかを評価するのに効果的な画像診断法です。腫瘍に対する治療の効果を評価するために用いることもできます。 放射性核種骨スキャンは、がんが他の骨に転移しているかどうかを示すのに役立ちます。通常のX線検査よりも早く転移を見つけることができます。骨スキャンは、原発がんによる骨の損傷がどのくらいなのかを示すこともできます。 画像処理の結果は、その後の治療計画にとって重要です。しかし、確定診断が得られるのは生検(腫瘍組織のサンプル採取)だけです。病理医は、検査室において顕微鏡下で組織検体を解析し検査します。この、いわゆる病理組織学的検査によって、腫瘍が骨の肉腫かどうか、もしそうであればどの種類なのかを判断することができます。生検にはさまざまな種類があります。針生検を行うか切開生検を行うかは、腫瘍の位置によって選びます。針生検では、骨に小さな穴をあけ、針のような器具を使って腫瘍から組織検体を採取します。切開生検では、腫瘍に小さな切り傷をつけてから組織検体を採取します。針または切開の経路は、本手術の際に切除することが重要です。 血液検査を追加することで、悪性骨腫瘍を見つけることができ、特定の種類についての詳細な情報が明らかになる可能性があります。骨肉腫またはユーイング肉腫患者では、特定の酵素の血中濃度(アルカリホスファターゼや乳酸脱水素酵素)が上昇する場合があります。

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徴候および症状

 残念ながら、悪性骨腫瘍はかなり長い間症状が現れない場合があるため、見過ごされる可能性があります。症状がある場合は、腫瘍のある部位によって症状が異なります。ほとんどの場合、患者には以下の症状が現れます。 腫瘍のある部位の痛みまたは腫れ。痛みは、必ずしも永続的ではありません。初めは現れたり消えたりし、のちに重度で持続的になる可能性があります。動くと痛みが悪化し、周辺の軟部組織が腫れる可能性があります。 関節の腫れおよびこわばり。関節の周囲または内部の腫瘍によって関節が腫れ、圧痛またはこわばりが生じる可能性があります。これによって動きが制限されたり、痛みが生じたりします 跛行(はこう:引きずり足歩行)。腫瘍がある骨は骨折する可能性があり、緊急治療につながります。腫瘍と診断されずに、単純な骨折として治療が行われた場合には、跛行が顕著になったり、さらなる骨折を引き起こしたりする可能性があります。 まれに、悪性骨腫瘍患者は、発熱、全身の体調不良、体重減少、貧血(赤血球数の低下)などの症状がある場合があります。 骨の肉腫は多くの場合、臨床医、放射線科医、病理医が悪性であると認識するのが困難です。疑いがある場合でも、経験が不足していると単純X線上の腫瘍が見つけられない可能性があります。そのため、原発性悪性骨腫瘍が疑われる患者はすべて、生検を行う前に、骨の肉腫専門ネットワークに属する骨の肉腫の専門施設または機関に紹介されるべきです。このような腫瘍の治療を通常行っていない外科医は生検を行うべきではありません。

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